05...虫の知らせ【Side:山端逸樹】

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 昨夜買って帰った酒を全部飲み終えてから就寝したのは午前三時を過ぎた頃だった。  寝酒にするにはいささか多い量か、とも思ったが案外飲み始めると少ないぐらいで。  大体俺はザルだ。少々飲んだくらいじゃ酔えないし、逆に目が冴えてくるから始末に負えない。  オマケに昨夜は自分的に楽しいことがあって、頭は覚醒する一方だった。  結局横になってからもしばらく寝付けず、多分睡眠時間は二時間にも満たないだろう。  それでも六時にはちゃんと起きて会社へ行く支度を始めた。  酔えないんだから二日酔いはさすがにないが、寝不足のほうは如何ともしがたい。  冷水で顔を荒っぽく洗うと、少しだけ頭がスッキリした。  で、気付いた。 (置いて帰ったか……)  ざっと部屋ん中を見回したが、あのコンビニに立ち寄った一番の理由である小箱がない。 (あいつ、酒と別包装する気だったのかよ)  十代やそこらのガキじゃあるまいし、コンドーム買ったからって隠すこたぁねぇだろう!  そう頭の中で毒づいてから、まぁ、嫌がる輩も多いだろうし、俺みたいに平気すぎるのもどうか……と思い直す。 (まぁ、しゃーねぇ。また夜にでも取りに寄るか)  そう思ってから、我ながら可笑しくなった。 (おい、お前、たかだかゴム一箱のために行く気か?)  自問してから「違うな」と思い直す。  そう、あの店員の顔をもう一度見るのも悪くないと思ったのだ。  とはいえ、昨日と同じ時間に行けば必ず会えるとは限らないのは分かっていた。 (ま、行くだけ行ってみるか)  そう考えてから、 (俺も焼きが回ったな)  何となくそう思った。
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