08...ハプニング【Side:山端逸樹】

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 帰りの荷物が多くなることを想定してわざわざ軽トラで来たけれど、決して乗り心地の良い車じゃない。  それでも、こんな車でもここまで来られたという実績が得られたことは、ある意味俺にとっては嬉しい出来事だった。近い将来直人がこの辺りに住んだとしても、十分行き来出来る距離だと思える材料になったからだ。  そう。結局のところ、俺は直人との距離が離れてしまうかも知れないという不安を、少しでもいいから軽減しておきたかったのだ。 (いや、たまたま知り合いの山が直人の実家に近かっただけだろ……)  いくらそんな風に言い訳をしてみたところで、今日の用を済ますためだけならわざわざこんなところまで出向く必要はなかったはずだ――。 (俺も大概バカだよな)  それは、最近俺がよく思うことだ。だけど、それがどうやら俺という人間の本性のようだから仕方ない。そして、それが案外嫌じゃないこともまた確かで。  顔には出さず心のうちで苦笑すると、俺は胸ポケットに仕舞っておいた携帯を取り出した。 「圏外かよ……」  山奥に入ったのだから無理もない。無常にも「使用不能」を訴える携帯を助手席に放り投げると、俺は密やかに溜め息を漏らした。  まぁ、直人が住む辺りはここよりは大分開けた街中だったから問題ないだろう。  さっき、この山に入る前、直人の実家の位置を聞き込む目的で立ち寄ったコンビニで見たときには、携帯はバッチリ電波を拾っていた。  そこまで考えて、何をするにも直人基準で物事を考えてしまう自分に気付いて、またしても苦笑した。
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