05...虫の知らせ【Side:山端逸樹】

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 家を出たときから重苦しい色をしていた空が、堪えきれなくなったらしい。  会社に付いた頃には、雷を伴った激しい雨が降り始めた。 (天気予報、当たったな)  今日は現場の作業は中止にするしかない。  セメントを流し込む工程に入る予定だったのだから当たり前だが、何となくそれが心の中で引っかかったのは何故だろう。  仕事に入るはずだった下請けに連絡を取り、作業延期の旨を伝えながら、俺は心が落ち着かないのを感じていた。 (もしかして現場に何か問題が……?)  虫の知らせじゃないが、ふとそんなことが頭の中を過ぎって俺は気分が悪くなる。 (後でちょっと覗いてみるか)  今日は一日、適当にデスクワークをこなして過ごそうと思っていたが、一度現場に行ってみようと思い直す。  土砂降りの中、わざわざ出る必要なんてないのかも知れないが、こういう胸騒ぎは放っておくとろくなことがない。  一時間ほど事務的な仕事をこなしてから、時計を見遣ると、思いのほか時間が経過していた。 (十時か)  予定より少し遅くなってしまった。  そう思っておもむろに合羽を着込み外出の準備を始めた俺に、同僚たちが怪訝そうな視線を向けてくる。それにいちいち何か言うのも億劫で、俺は無言で行先表示板の「山端逸樹」の欄に「現場」とだけ走り書きして事務所を後にした。  まぁ、何かあれば携帯が鳴るだろう。
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