09...過日の記憶【Side:三木直人】

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 彼の足元へと視線を遣ると、じり、と彼が一歩前に出る。  そこで漸く、俺はまともに彼の顔を見た。 「……連絡ぐらいしろよ。マジ信じらんねー」  安堵より今は怒りの方が強かった。なのに語気はそこまで荒れない。どころか、 「心配、させんな……」  終には掻き消えそうに小さくなってしまう。  思いがけず声が震えていた。悟られたくなくて、口を噤んだ。顔を背けた。  じわりと目頭が熱くなり、込み上げる涙がこぼれないよう必死に堪える。 「……悪かった」  彼は更に距離を削り、静かに告げた。  視界に入った影が動く。頬に彼の手が触れた。指先はひどく冷えていた。 「どうしても、見せたいものがあったんだ」  続けながら、彼は俺の頬を撫でていた。  同じように、その冷たさを確認しているようだった。  俺は僅かに瞑目した。少しずつ、呼吸の仕方を思い出すように。 「せっかく、直人と過ごす初めてのクリスマスだと思ってな」 「だから、その……前も言ったけど、そういう初めての何とかって言い方やめろっての」  俺は溜息混じりに肩を落とした。  やっとどうにか、普段通りに振舞えそうだ。  初めての何とか。そう、彼は以前俺の誕生日の時もそう言う風なことを言っていた。  それがどれだけくすぐったい言葉なのか、彼には自覚がないんだろうか。  まぁ、もともと彼の言動はさっぱり読めないところがあったから、それも今更って話なのかもしれないけど。  思い至ると、諦めたように笑みの呼気が漏れた。 「まぁ、いいや……。で、見せたいものって何」  言ってから、改めて彼の様相に気がついた。くたびれきった風采、憔悴した表情――まるで残業続きの現場からここに直行したかのような。  俺は若干の不安を覚えながら、彼の反応を待った。
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