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10...戦利品【Side:山端逸樹】
一刻も早く直人の元へ向かわねばならないと思うのに、どう言い訳をしようか迷ってしまって、なかなか足が動かない。それで、ぼーっと彼のアパート――正確には直人の部屋の窓――を見上げたまま立ち尽くす格好になってしまった。
と、そんな俺の背後で、突如バイクのブレーキ音が響き渡る。正直、意識が拡散していた俺は、奇しくもその音で現実に引き戻された。
「直人、……」
半ば条件反射のように振り返れば、背後には見慣れた原付にまたがった直人がいた。
(出かけて、たのか……?)
これだけ待たせたのだから無理もない。
彼の眉をひそめた表情は、怒っているようにも見えたし、今にも泣き出しそうな顔にも見えた。
その顔を見たら、言い訳なんて考えていた自分が恥ずかしくなって、俺は案外すんなり謝罪の言葉を口に出来た。
そんな俺の方を見ようともせず、直人は無言のままバイクを駐輪場に突っ込む。
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