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会社名と電話番号が入った軽トラを飛ばして現場に辿り着くと、傘を差してぼんやりと立ち尽くす男の姿が目に入った。
(何だ……?)
それを見た途端、朝から感じていたモヤモヤとした気持ちが思い出されて、俺は自然そちらへ向ける足が速くなる。
雨が酷くて紗が掛かったように見え辛かったが、近付くにつれてそれが若い男であることが分かった。
現場に掲げられた工事看板と、建設業の許可票を真剣に見詰めるその男の片手には、紙袋のようなものが抱えられている。余程大切なものが入っているのか、身体にピッタリくっ付けて濡れないように気を遣っているみたいだ。
寧ろ、逆の手に持たれた携帯電話のほうがぞんざいな扱いを受けているようで――。無防備に持っているもんだから傘から伝った雫が、時折ポツポツと掛かっているのが気になった。
もしかしたら電話をかけようとしているのか、もしくは工事看板を写真に撮るつもりなのかも……。
(苦情か?)
その姿を見て咄嗟にそんなことを思う。
工事看板などには工事名や工期、それから発注者に加えて施工業者名や連絡先、現場責任者の氏名などが明示されている。
俺が受け持っているここは、市から発注を受けた公共事業なのでそういうところには抜かりがない。
ここで処理をしくじると後が面倒だ。
そう思った俺は、
「何か問題でも?」
その青年の横に立つと、なるべく紳士的な口調で問いかけた。
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