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「あ、逸樹さん……別に車で待っててくれて良かったのに」
一瞬身構えた身体から力が抜ける。
目を向けた先には逸樹さんが立っていて、俺は「そんな待ちきれなかったの?」なんて戯れにこぼしながら再び冷蔵庫に視線を戻す。
そうして再び中のケーキへと手を伸ばした時――、
「直人」
名を呼ばれると同時、突然肩越しに長い腕が延びてきて、
「え? ……え?」
何事かと俺が振り返る前に、パタンと冷蔵庫が閉められてしまった。
「な……、え?」
戸惑いながらも、改めて背後に立つ彼を振り仰ぐ。と、そこに被さる影が一気に色濃くなって、
「! んんっ……!」
次の瞬間、何の前触れもなく俺は口を塞がれていた。
「…ん…ぅ……っ」
塞いだのは彼の唇だった。彼は顎先に指をかけ、俺の意思などお構いなしに口付けの角度を深くしていく。
はっとして身を離そうとしても、不安定な姿勢のせいもあってなかなかうまく行かない。
その間にも、彼の舌は口腔内を這い回り、歯列を辿り、何度も食むように合わせの位置を変えながら、逃げようとする俺の舌を絡めとる。
息継ぎの隙も与えないような執拗な口付けに、押し返そうと触れていた手にも次第に力が入らなくなり、
「ふ…っ……」
俺はいつの間にか縋るように彼の服を掴んでいた。
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