14...その夜(おまけ)【Side:三木直人】*

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「っ、ぁ……」  嚥下し損ねた唾液が溢れ、伝い落ちるそれを逸樹さんの舌が受け止める。  名残惜しいみたいに下唇を啄み、かと思えば艶かしく吸い上げて、そうしてやっと顔を離した彼は、どこか不穏な笑みを浮かべて俺を見下ろした。  そんな彼の表情を茫洋と見つめながら、ずるずると俺の身体は床の上へと崩れ落ちる。支えていた彼の手が緩むと、腰が抜けたみたいに堪えきれなくなった。 「な、なん……」 「ケーキよりまずお前だ」  軽く混乱している俺に、躊躇いもなく囁いて、彼はそのまま俺の上へと覆い被さってくる。 「え、こ、ここで……?!」  言うが早いか、彼の手は既に俺の上着の合わせをはずしにかかっていた。  そうしながら、狭く冷たいキッチンの床に俺を押し倒し、再び唇を重ねようとする。 「ま、待てって、そんな急に……っ、玄関の鍵も締めてねぇのにっ」 「俺が締めた」 「!」  顔を背け、一時は彼の意図をかわしたけれど、結局また顎を捕らわれ、強引に口付けられた。 (マジかよ……っ)  肌蹴られた胸元に、キンと冷えた室内の空気が触れる。  口許から首筋へと位置を変える唇が肌を濡らし、より一層寒さが染みた。思わず小さく肩が震える。 「……ちっ」  と、彼が舌打ちするのが聞こえて、俺は彼の動きを目で追った。
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