14...その夜(おまけ)【Side:三木直人】*

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「ったく、素直じゃねぇな」  背後で逸樹さんが呆れたように溜め息をつく。俺は振り返り、「アンタが言うな」と言いかけた言葉を飲み込んだ。  彼は俺の片腕を取ると、無言で自分の肩に回した。 「逸樹さん……?」 「なんだよ」 「あ、いや、別に……」  彼は俺を支えると、ゆっくり歩くよう促してきた。  意外だった。  逸樹さんが俺に肩を貸してくれた――それだけのことに、正直普通に驚いて、そしてちょっとだけ感動した。 「何にやにやしてんだよ」  不機嫌そうに言われても、俺は顔が綻ぶのを止められない。  だってこういう時、彼はいつも一方的に俺を抱き上げるなり、担ぎ上げるなりして、自分のしたいようにするばかりだった。俺がどんなにそれを不本意だと訴えても、そんなことはまるでお構いなしに。 (少しは考えてくれたのかな、俺の気持ちも)  思えばこそ、バスルームへと歩き出してからも、ついちらちらと逸樹さんの横顔を見てしまう。  俺は素直に彼の肩を借りて、目的地までの短い距離をなんとか歩いた。  だけど――。 「ありがとう、逸樹さん」  脱衣場に着き、支えを壁に移し、そうして彼から離れようとしたとき、 「ついでに洗ってやるよ」  彼はやっぱり何の断りもなく俺を抱え上げて、返事も待たずにバスルームの戸を開けた。
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