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まるで固まったみたいに俺の背後で立ち尽くす逸樹に、
「お前、いつまで突っ立ってるつもりだ?」
俺は苛立ちを隠そうともせず、そう告げて立ち上がった。放っておいたら、逸樹はいつまででも動かない気がしたから。
早く行けよ、という思いを視線に込めながら、マウスを操作していた右腕を揉みつつ彼を睨みつける。
「風呂、入れって言っただろ?」
「あ、ご……ごめん、なさい」
反論することなく謝りはしたけれど、多分心の中では俺に対する不満を漏らしているはずだ。
思うことがあるなら、口に出せばいいのに。それが出来ない逸樹が少しばかり不憫に思える。
俺に対してさえ、こいつは気を遣うということだ。つまりは俺のことも、他の奴らと何ら変わりないと思っているということで――。
そう思ったら、らしくもなく余計な一言を付け加えてしまっていた。
「いい加減、その癖、直せ」
「……え?」
「自分が悪いと思ってないのにすぐ謝る癖」
例え逸樹が本音で俺にぶつかってきたからと言って、俺は面倒だとは思わないし――いや、そう言い切るのは語弊があるかもしれないが――寧ろそうして欲しいとも思う。
周りの反応を窺うように小さくなっている逸樹を見ているのは、同じ血統の血が流れる人間として正直面白くなかった。
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