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「俺が嫌いか?」
図星を突かれたときの逸樹は、いつも困ったように視線をそらす。一瞬でも、感情が顔に出てしまうのを見られることを厭うように。
みんなの前で、とは言わないまでも、せめて俺の前でぐらいそういう気遣いをさせずにいさせてやれたら――。
ふとそんな風に思って逸樹をジッと見詰めると、
「に、苦手、だけど……多分嫌いじゃない」
ややあって、珍しく表情を垣間見せながら逸樹が口を開いた。
他者相手に自分の気持ちを打ち明けるこいつを初めて見た俺は、一瞬その表情に見入ってしまった。
そうしてから、どこか怯えたような表情をする逸樹に、いつもの毒気を抜かれてしまう。
軽口の一つでも叩いて場の雰囲気を和ませてやったほうが良かったのかもしれないが、そのときの俺にはそんな余裕はなくて。
短く簡潔に「そうか」とだけ受けると、
「ほら、風呂入れ」
俺は己の動揺を悟られないように、逸樹を風呂へと急きたてた。
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