後編【side:川崎素直】

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 後編【side:川崎素直】

 クリスマス・イヴの夜。  俺は遊び仲間の中で飛び切り綺麗どころの一人に声をかけると、家へ遊びに来るよう持ちかけた。  絶対とは言い切れないが、俺が綺麗だと思う女なら逸樹だってそう感じるに違いないと思ったから。  そう。  俺は生まれてこの方、クリスマス・イヴという日を心から楽しいと感じて過ごした経験を持たないであろう逸樹に、少しでも良い思いをさせてやりたくなったのだ。 「帰ったぞ」  夜、大きなクリスマスケーキと、シャンパン、それからオードブルを抱えて女連れで帰宅してきた俺に、逸樹が目を見開いて驚く。  昨日と変わらずリビングで勉強していた逸樹は、そんな俺たちの様子を見て慌てたように参考書などを仕舞い始めた。 「ごめんなさい。今、片付けるから」  ちらりとカレンダーを見、今日がイヴだったと悟った逸樹が、勉強道具を抱えてそそくさと隣室へ引っ込もうとする。  そんな彼に、 「荷物置いたらお前も付き合え」  有無を言わせぬ口調でそう告げると、俺は背後で品定めするように逸樹を見詰める女――麻美――を部屋に上げた。 「従兄弟の逸樹だ。クソ真面目だが、俺に似て顔は悪くねぇだろう?」  そう告げながら――。  逸樹を見る彼女の表情から、逸樹への評価が満更ではないことを読み取った俺は、ホッとするのと裏腹に少し面白くないと感じてしまった。 (……?)  一瞬芽生えたその感情に、自分でも腑に落ちないものを感じる。  いつも俺にべったりな麻美が、逸樹に色目を使うのが腹立たしかったんだろうか?  遊び相手は彼女だけじゃないはずなのに、そんなことを思ってしまった自分が何となく滑稽に思えた。  その考えを払拭するように頭を軽く振ってから、テーブルに食料を置くと、人数分のグラスを出すために食器棚へ近付く。  そこで、躊躇うように扉の隙間からこちらを窺う逸樹が視界に入った。
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