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「何してる。早く出て来い」
俺のそのセリフに、ドア近くにいた、麻美が逸樹の手を取ってリビングへと誘う。
「さぁ、いらっしゃいな。今日はお姉さんが愛情たっぷりのサービスをしてあげちゃうから♪」
いつもの軽い調子で――そう、まるで俺にするように逸樹に擦り寄る彼女を見て、俺は不意に嫌悪感を覚えた。
「すまん。麻美。今日は帰ってくれないか?」
思わずそう口走ってから、俺は自分の言葉に驚いた。
「え?」
いきなり帰れと言われた彼女も、戸惑ったらしい。
間の抜けた声を出して俺のほうを見詰めると、きょとんとした顔をした。
「あ。お、俺、邪魔だったら……」
その空気に居た堪れなくなったのか、逸樹が慌ててきびすを返そうとする。それを、麻美が抱き締めるようにして止めた。
「邪魔なんかじゃないわよ。今日は私、素直に頼まれて貴方の相手をするように言われて来たんだもの」
ねっとりと……まるで逸樹を品定めするように胸元を撫でる麻美の手の動きを見て、俺は自分の感情が抑えられなくなった。
「触んな」
麻美の手を乱暴につかむと、逸樹から引き剥がすように強く引いて、俺は彼女を玄関へと押しやる。
「ちょ、素直! いきなり何なのよ! 家に来て従兄弟を元気付けてやってくれって頼んできたのは貴方のほうよ?」
「ああ、そうだ。けど……気が変わった」
俺の気まぐれはいつものことだ。
一瞬怒気を滲ませた目で俺を睨んだ麻美だったが、それも刹那のこと。一拍置くと、諦めたように溜め息をついて、
「分かったわ。じゃ、また気が向いたら連絡して」
恐るべき切り替えの早さで、艶然として俺に口付けると、驚くほどすんなり部屋を出て行った。
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