06...転機【Side:三木直人】

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 とは言っても、日頃使わないだけに、うちにはまともな傘が無かった。  唯一使えそうだったのは、以前出先で急を要して買った、小さめのビニール傘一本だけ。  半ば使い捨てとも見えそうな貧相なそれを仕方なく開いて、俺は家を後にした。  普段使いの鞄は斜めがけで、身体には添っている。が、素材が帆布なので防水は宛てにならない。  なので俺はひとまず、届け物の袋だけはできるだけ濡れないようにと、胸の前で抱えて持っていた。 (…あそこ、だったよな)  二十分ほど歩いたところで、漸く目的の工事現場が見えてくる。  微妙に水捌けの追いついていない歩道を歩きながら、俺は雨に霞む視界に目を凝らした。 「……あ」  だけど、その後まもなく、俺は短い声を上げた。  工事現場でよく見かける目隠しのような衝立の隙間から、思い切って中を覗いてみると、 「や、休み…?」  そこには誰の姿も無かったのだ。 「そりゃそうか…こんな天気じゃ……」  どうして気付かなかったんだろう。  この現場はどう見ても吹き曝しなんだから、素人判断でも、悪天候で作業が中止になる可能性なんて、いくらでも考えられたはずだ。  俺は溜息と共に肩を落とした。  視線まで落とすと、びしょ濡れになった足元が目に入る。  ますます気鬱になってきた。
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