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「いつも思うんだけど……お前、苦しくないか?」
他者から愛されたいと願うが故に、自分を押し殺してしまうことが。
急に話題を変えた俺に、逸樹がきょとんとした顔をする。
俺は常に自分の欲望に忠実だ。
俺がやりたいようにやって……それでも俺のことを好きだと言ってくれる奴が数人傍に居てくれればいい。
だから、逸樹みたいに自分を押し殺してでも他人の愛を得ようとすることが、どうしても理解出来なかった。
いや、頭では理解出来ても、そんな風に無理をしてしまう逸樹に、苛立ちを覚えた。
逸樹が堂々と自分をさらけ出してワガママを言ったところで、こいつのことを好きになってくれる相手はいくらでも居るはずだ。
なのに、何だってこんなに卑屈になって媚びへつらう必要がある?
そこまで考えて、逸樹の両親のことが頭に浮かんできた。
俺みたいな唐変木を息子に持っても、それを恥じることなく可愛がってくれる、ある意味親馬鹿なうちの両親。
それとは対照的に、逸樹みたいに聞き分けのいい息子を持ちながら、それが当たり前だとでも言う風に彼のことを顧みることすらしない逸樹の両親。
矢張り俺がこんな風にふてぶてしく居られるのは、何ら見返りを求めず可愛がってくれる親のお陰だろう。
何も努力しなくても愛された経験がある俺と、そうではない逸樹。
二者の間の、この決定的な違いが逸樹をこんな風にしてしまっているんだとしたら。
俺の言葉に黙り込む逸樹を見て、俺は思わず彼を抱きしめた。
急に予期せぬ行動を取られたことに、逸樹がビックリしたように身体を硬直させる。
そうされた経験がないから余計にどうしていいか分からないという風に呼吸すら止めてしまった逸樹に、俺はさっき感じた嫌悪感の正体を悟る。
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