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逸樹に、最初に愛情を注ぐのは俺でありたいと思ってしまったのだ。
その美味しい役回りを、麻美にくれてやることが急に惜しくなっただけ。
逸樹の両腕をしっかり掴んだまま彼の顔を覗きこむと、俺は柄にもなく真剣な眼差しをして言葉を紡いだ。
「逸樹、お前、いい加減変な気を遣うの、やめろよ。ありのままのお前を愛してくれる相手は絶対現れるんだからな。言っとくが、卑屈になって得た愛情なんて全部偽物だ。本物が欲しけりゃ、お前も自分を偽らないようにしろ。いいな?」
いつも自分のことを馬鹿にした態度しか取らない俺が、急に真面目ぶった物言いでそう告げたことに驚いたように見えた逸樹だったが、やがて俺の言葉を吟味するようにゆっくりと瞬きをした。
「……分かった。努力は、してみる」
ややあってぽつんと呟かれた言葉に、俺は逸樹の頭をポンポンと撫でた。
「ああ。頑張れ。因みに俺は、お前が反抗的な態度を取ったって愛してやれる自信があるからな」
ニヤリと笑っていつもの調子で軽口を叩くと、一瞬表情を隠すようにうつむきかけてから、思い直したように顔を上げる逸樹。
俺と視線が合った途端、あからさまに嫌そうな顔をして、
「……素直兄さんはワガママそうだから遠慮しとく」
ぽつんと、しかしハッキリとそう、告げた。
今までの逸樹だったら絶対に言わないだろう、どこか辛辣なその言葉に、俺は何となく嬉しくなった。
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