0...prologue【Side:川崎素直】

1/1
前へ
/354ページ
次へ

 0...prologue【Side:川崎素直】

 そろそろ梅雨が終わろうかという頃、俺と妻の麻美(あさみ)、共通の友人から結婚式の招待状が届いた。海外挙式なので、日帰りというわけにもいかないし、その間娘は学校もあるしで辞退しようと告げた俺に反して、麻美がどうしても行きたいと駄々をこねた。  彼女の言い分によると、婚約当初からお腹に子供がいたため、新婚旅行にも行ってないんだから、だそうだ。  じゃあ、子供はどうするんだ?と問うと、新婚旅行の代わりなのだから二人きりがいいだの、預け先を見つけろ、だのうるさい。  こういうときにいつも、腐れ縁の友達で快く娘を預ってくれる先を心得ていた俺は、そんな麻美への反感も手伝って、ギリギリまで行動を起こさずにいた。  で、不在予定まであと一週間足らず、と迫った頃に、「いい加減連絡しねぇとまずいか」と言うことで、彼に打診してみたのだ。 「でな、美咲をお前のところに預けたいな、なんて思ってるんだけど。――どうよ?」  電話先の相手、保育士なんちゅー職業柄か、いつもなら二つ返事でOKをくれるのだが、何やら今回に限って歯切れが悪い。 「何か不都合でもあるのか?」  一抹の不安を抱いてそう問いかけると、向こうは向こうで俺のところに一人息子を預けようと思っていたのだ、と言う。  何でも二人目出産のために里帰りした奥さんの穴を埋めるべく、一人バタバタ奔走しているらしいのだ。 「じゃあ、しょうがねぇよなぁ」  あちらはあちらで、俺が駄目なら別の人間に預けようと気持ちを切り替えたらしく、「当てがあるから気にするな」と来た。  おいおい、そっちは良くても俺はどうなるよ?  一瞬そう思って溜め息をついてから、ふと一人、おあつらえ向きの人間が頭に浮かんだ――。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1830人が本棚に入れています
本棚に追加