2...タイミング【Side:三木直人】

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 2...タイミング【Side:三木直人】

(眠……)  次のシフトのスタッフに仕事を引き継ぎ、引き上げてきた更衣室で、危うく寝倒れそうになる。  俺は癖のように取り出した携帯画面を一度眺め、そこに一件の新着メールがあるのを確認すると、その内容を目にして溜息を吐いた。 (とりあえず…今日は一日寝るって……)  昨夜はバイトが無かったから、……いや、無かったからこそ徹夜で課題をする羽目になった。  大学も四年生になり、季節も秋に差し掛かればそろそろゼミの研究も卒論を見越して忙しくなってくる。そうじゃなくても、俺が選択したゼミの教授は課題が多いので有名で、必須の履修科目自体はほとんど無いにも関わらず、昨夜のように徹夜で課題を片付けなければならない日も珍しくなかった。  まぁ、それは俺が、以前より更にバイトを増やしてしまったのが原因の一つではあるんだけど。  だって学校が暇だと思ったら、ここは稼いで置かなきゃ損かな、とも思ったのだ。  幸い、就職先は既に決まっている。  俺が嫌だと言わない限り、このまま行けば母親がやっている私設保育園の手伝いをすることになっている。うちの大学で取れない保育士の資格については、取るなら取るで、仕事をしながら勉強すればいいとか何とか、実際に現在保育士をやっている兄が言っていた。  俺には別に夢もない。どうせならこれに就きたいと言う職業すらなかった。 だから俺は、母親の望む通り、兄貴の言葉通りに、大人しくそれに従うつもりでいるわけだ。  まぁもともと子供は嫌いじゃないし、俺が昔からお兄ちゃん子なのは今も変わっていなくて、早い話がとっとと実家に帰りたい気持ちも無いとは言えないし。 (そういや……そういう話、したことねーな)  帰り支度を済ませ、ポケットに戻していた携帯に何気なく意識を遣ると、連想ゲームのように頭に思い浮かんだ一人の男の姿に、俺は暫し沈黙する。  が、結局眠気には勝てず、俺は再び込み上げた欠伸を機に、一旦思考を停止させた。 (……あ、メールの返事――も、まぁ帰ってからでいっか)  気怠い足取りでバイト先のコンビニを後にして、ついでのように思い出したそれにも、今は目を瞑ることにした。
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