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家に着くなり、何に手をつけるでもなくベッドに一直線。結局そのまま深い眠りに落ちた俺は、日中の部屋の暑さにどうにも堪え切れなくなったところで、ようやく重い瞼を上げた。
九月も下旬になったとは言え、まだまだ締め切った部屋の気温は尋常じゃない。それも機能性より家賃重視で選んだワンルームマンションともなればなおさらだ。
「…あっち……」
のろのろと上体を起こし、額に貼り付いていた髪を鬱陶しげに掻き上げる。気がつけば服も帰った時のまま、果ては鞄まで肩から提げたままだった。
俺はテーブルの上のリモコンに手を伸ばし、とにかくエアコンのスイッチを入れた。そして改めて鞄を床に放り、服を脱ぎながら真っ直ぐ浴室に向かった。
シャワーを終えて出てくると、俺は真っ先に冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを取り出した。
「――アレ、電話鳴ってる?」
スウェットパンツに上は裸と言う格好で、早速それを傾けていると、ふとどこかで携帯が着信を知らせていることに気づく。
脱ぎ捨てていたジーンズのポケットに入れっぱなしだったから、その所為で音が篭っていたらしい。
俺は慌てて口元を拭いながら、なんとかその音が途切れる前に携帯を手に取った。
「…もしもし?」
通話ボタンを押す直前、画面で確認をした番号は、予想外に身内のものだった。
まさか誰かに何かあったとか……?
(や、でも先月帰省した時、みんな元気だったし)
一瞬過ぎった嫌な考えを自分で否定して、ともかく返事を待ってみると、
「久しぶりだな。元気にやってるか、直(なお)」
そんな俺の不安を余所に、聞こえてきたのはまるで普段と変わらない兄の声だった。
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