1829人が本棚に入れています
本棚に追加
「な…んだよ。何事かと思うじゃねーかっ」
「はは、いや、元気ならいいんだ」
「……?」
自分で言うのも何だけど、うちの家族は結構仲が良い方だと思う。中でも俺は、兄――秋人あきひと――の誕生から十五年経ってようやく産まれた待望の第二子だったこともあり、特に可愛がられて育ったらしい。
十五歳も差がある兄貴にとっても、それはもう可愛くて仕方のない弟だったとかで、しかもその溺愛ぶりは、数年前に結婚したいまとなっても変わってないとかなんとか……。
だからなのかは知らないけど、確かに兄貴からは時折こうして、特に用件の無い電話がかかってくる。
だけどいつもならこんな時間にかけてはこない。そう、俺が予想外だと思ったのは、要はこの日中と言う時間帯。
秋ちゃん――兄貴を俺はずっとこう呼んでいる――が、電話をかけてくるのはいつも決まって夜だったから、そこがちょっと引っかかったのだ。
「……ホントにそれだけ?」
「いや、まぁ……実はちょっと直(なお)に頼みたいことがあってな」
「やっぱり……」
と、言わずにはいられない。
俺は浅い溜息をひとつ吐くと、
「それで? いったいどんな頼みなんだよ」
言い様に反して、笑みの滲む声でそう返した。
だって、それこそ珍しいことだったのだ。
いつも俺にしてくれてばかりの秋ちゃんが逆に頼みごとなんて――ここ数年は殆ど記憶にないくらいだった。
だから俺は、ほとんど二つ返事にその頼みごとを承諾した。
秋ちゃんのことは俺だって好きだし、本当ならいつだって力になりたいと思っていた。だけど結局、十五も離れた俺にできることなんて限られていて、殆ど何もしてあげられないばかりの日々だった。
その秋ちゃんが、ようやく俺を頼ってくれたのだ。俺にしか任せられないことがあると。二十二歳にしてようやく、大好きな兄に一人前だと認められたような気がした。
「……わかった、来月の連休だろ。バイトは休みとっとく」
俺は素直に、自分でも驚くほどまっすぐな声で頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!