2...タイミング【Side:三木直人】

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(宏哉(ひろや)っていま何歳だっけ……)  通話を終えたばかりの携帯を握ったまま、俺はどさりとベッドの上に腰を下ろす。  会話に夢中になって忘れていたが、結局確保できた睡眠時間は予定より随分短かった。不意に込み上げた欠伸もそれを物語っているようで、俺は再びベッドの上へと倒れ込む。 (小学校は再来年からって言ってた…てことは、今四歳? ……いや、五歳かな)  秋ちゃんからの頼みごとは、早い話が子守りだった。時期は来月頭の連休だ。  その頃には京香さん(義姉)が二人目の出産準備のために実家に帰っており、たまたまうちの両親も旅行で不在、当てにしていた友人も都合がつかなかったらしく、最終的に白羽の矢が立ったのが俺だったらしい。  最初から俺を選ばなかったと言う点ではちょっとがっかりしたりもしたけれど、外泊が苦手な宏哉――秋ちゃんの息子――のためにも、そろそろ余所に預けてみたかったと言われれば、それほど悲観的にもならなかった。  だってそれだけ信頼してくれてるってことだろ。俺のことを。 (……あ。そう言えばメール…)  思考も徐々に霞みがかり、まどろみかけた意識の中、俺はふと思い出して小さく頭を振った。  僅かでも眠気を払うように軽く目を擦り、再び携帯画面を開く。  バイト中に届いていたメールを改めて呼び出し、「悪いけど、今日は無理。また今度な」と短い文面を打って、そのまま送信ボタンを押す。  と、送信完了と画面に表示されるが早いか、そこで不意にまた携帯が鳴った。 「び…びっくりした……。あ、逸樹さん」  必要以上に驚いて、咄嗟に漏らしかけた、悲鳴のような声は何とか堪えたが、過剰に跳ねた心臓の音は未だに早鐘を打っている。  着信は電話ではなくメールだった。  時間を見るに、仕事中に送信して来たんだろう。 「何やってんだ、そんな暇なのかよ」  半ば呆れたみたいに零し、けれどそう悪い気分でなくメールを開くと、 「…来月? 旅行? って、いつの話だよ。……連休なら、もう無理……つか、言ってくんの遅ぇよ。タイミング悪すぎ!」  その内容に一変して苛立ちを覚え、俺は暫し沈黙した。  そして、一応いろいろと考えた末、送信したのは「無理」と言う二文字だけ。  結果だけ見れば、直前に相原に返したメールよりずっと短い文面だった。
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