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3...夜の訪問者【Side:山端逸樹】
望むと望まざるに関わらず、月日はどんどん流れていく。直人と約束らしい約束も取り付けられないまま、暦は既に十月に入っていた。
俺が直人に旅行にでも、と持ちかけた連休も、明日からだ。
「……ったく、連絡ぐらい寄越せよ!」
旅行を余りにも素っ気無い言葉で断られたのが腹立たしくて、俺は努めて直人に連絡を取らないようにしていた。
それを幸いと感じたのか、あちらから連絡が入ってくることもなく――。
気が付けば二週間以上直人と音信不通になっていた。
「いくら卒論が忙しいからって有り得ねぇだろ……」
夜――。
家に帰って一人自棄酒を飲みながら愚痴る。
その声が、愛鳥を気遣い電気を消した部屋の中、唯一の光源となっているテレビの明かりでぼんやりと照らされた室内を空々しく渡る。いつものように、テレビは消音状態だ。
「クソッ!」
それがまた虚しくて、俺は手にしていた缶ビールを一気にあおった。
と――。
マンションの廊下を歩く靴音が聞こえてきて。
「直人……?」
俺の部屋はこの階で一番奥まった部屋に当たる。
その前で止まった足音に、俺の心臓はドクンッと跳ね上がった。
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