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(連絡してくれりゃー迎えに行ったのに……)
そんなことを思いながら、意図せず顔が緩んでしまう。
勿論、身体は自然玄関へと向かっていた――。
相手がチャイムを押すより先に玄関の扉を開けてみれば、
「何だ、居たのか」
勝手に俺の部屋のドアに鍵を差し込んで中に侵入しようと試みていたスーツ姿の長身男とバッチリ鉢合わせになってしまった。
片手にピンクの可愛らしいボストンバッグを携えているところが何だか不釣合いこの上ない。
家が、車で三十分足らずの距離と比較的近いこともあり、緊急時に備えて彼に合鍵を渡していたことを思い出した俺は、それを回収しておかなかったことを今更ながら後悔した。
「す、なお……っ!」
居留守を使えばよかった!
合鍵を持たれていてはそれも効果のないことと知りながら、そう思わずには居られない。
一番会いたくない男の顔を眼前に認識し、俺は思わず扉を閉めようとドアを引いた。
が、それより先に素早く足で阻止した素直に、
「お前、それが小さい頃から散々世話になったお兄様に向けて取る態度か……?」
そう、抗議される。ついでに顎を片手で持ち上げるようにして視線を固定されてしまった。ニヤリと口元に刻まれた笑みで、彼が明らかに楽しんでいることを悟った俺は、何とか顔を背けてそれを解くと、
「だっ、誰がっ」
兄貴だよ、従兄弟だろーが!
そう、反論しようとして、未だかつて彼に勝てた試しがなかったのを思い出し、寸でのところでその言葉を飲み込んだ。
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