3...夜の訪問者【Side:山端逸樹】

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「……な、何の用だよ」  こうなっては彼を追い出すことは不可能だ。不承不承で扉から手を放して新たな被害を被らないよう一歩素直から遠ざかると、俺は仕方なくそう問いかけた。 「いや、明日からお前、休みだろ?」  その仕草に満足したのかズカズカと玄関に踏み入ると、素直が嫌味なぐらい整った笑顔でニッコリ笑う。  親族の――しかも同性の――俺から見ても美形だと思えるシャープな顔立ちの素直は、黙っていれば本当に目を惹く男だと思う。  それが、スーツでバッチリ身を固めているのだから、四十近くなった年齢を差し引いてもカッコいいと言えるだろう。  でもそんなこと、俺には関係ない。 「誰がそんなこと言ったよ?」  隙を見せればとことん付け入ってくるのがこいつだ。  俺は警戒心を緩めずそう言うと、素直を真正面から睨みつけた。 「カレンダー」 その言葉にアッサリとそう返すと、 「でな、三連休もあったんじゃ、お前、退屈するだろーと思って」  そこで初めて後ろを振り返ると、俺と自分との間に、小柄な人影を押し出した。  今まで素直に阻まれていて気付かなかったが、その人物を見てギョッとする。 「パパ、やっぱり私、逸樹のトコなんて嫌だ!」  小さな人影がそう言うのと、 「ゲッ! 美咲(みさき)!」  俺がそう言うのとがほぼ同時で――。 「お前ら、やっぱり気が合うよな。じゃ、そういうことで後、よろしく」  ドサリ、と手にしていたボストンバッグを玄関先に放り投げると、素直がくるりと踵を返そうとする。 「ちょ、ちょっと待て!」  どういうことだよ、これは!  さっぱり状況が飲み込めない俺に、 「二週間後には帰るから。俺の娘に手ぇ、出すなよ?」  ひらひらと手を振りながら、素直が去っていった。
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