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取り残されたのは俺と、素直の一人娘の美咲だけ。
「――っ誰が!」
こんなガキに手を出すかよ!
その言葉を喉の奥で噛み殺した俺に、
「逸樹ぃー、何で電気も付けてないのよ? 辛気臭いじゃない!」
さすが素直の娘というべきか。
確か今年でたかだか九つかそこらの癖に、我が物顔で俺の部屋に上がりこむと、勝手に電気を灯してしまう。
「待て! 勝手に電気付けんなよ! スパロウが起きるだろーが! っていうか、お前、とっとと素直追いかけて帰れよ!」
思わず美咲に手を掛け、グイッと引くと、
「キャー! チカーン!」
一丁前に女らしい悲鳴を上げやがった。
誰が痴漢だよ! 誰が!
一瞬その声に怯んだ俺に、
「往生際が悪いわよ、逸樹。パパもママも明日から海外旅行で居ないんだから仕方ないじゃない」
仁王立ちで俺を睨み上げると、美咲がいけしゃあしゃあとそう言い放った。
と、リビングのテーブルに無造作に置いていた携帯が着信を知らせてきて――。
美咲に文句のひとつでも言ってやろうかと口を開きかけていた俺は、その音に舌打ちして彼女の横をすり抜けると、携帯を手に取った。
そこで画面に表示された「三木直人」の名を見て思わず今、置かれている嫌な状況が吹っ飛ぶのを感じる。
「――もしもし?」
それでも今までの不義理に対する報復と言わんばかりに少し不機嫌な声音で応対すると、
「あ、逸樹さん? あの、ずっと連絡しなくてごめん! 俺、ちょっとバタバタしてて……っ」
そこで、俺の出方を伺うように一旦言葉を区切る。
それが分かっていてあえて無言を貫くと、
「……っ、でさ、あの……急で悪いんだけど……今からそっちに泊まりに行っちゃ駄目、かな?」
ある意味舞い上がりそうに嬉しくなる言葉を告げた。
「ねーねー逸樹ぃー、誰からぁ~?」
そう、こいつさえ居なければ――。
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