4...後の祭【Side:三木直人】

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「こんばんは、宏哉。ちゃんと俺のこと覚えてるか?」  見慣れた光景ではあったけど、秋ちゃんの背後にはその足にしがみつくようにして一人の少年が立っている。  荷物のパンパンに詰まった子供用のリュックを背負い、秋ちゃんの陰から俺の顔をじっと見詰めていた彼――三木宏哉――は、ややしてコクリと頷いた。 「直ちゃん」  次いで確かめるみたいに俺の名を口にする。 (かわいい……)  うん、と浅く頷き返し、笑って手を差し伸べると、漸くおずおずと前に歩み出る。 「人見知りは相変わらずだけどな。まぁ、それでもお前には慣れてる方だし……」 「ん、大丈夫。連休中は他の用事入れてないし、任せといて。……な、宏哉。ちゃんとバイバイできるよな」  俺の傍まで来た宏哉は、今度は俺の足にしがみ付き、 「…ばいばい」  と、俺が促した通り、素直に秋ちゃんに手を振った。 「じゃあ、いい子にしてるんだぞ。ちゃんといい子にしてたら、約束通り土産買ってくるからな」 「運転、気をつけろよ」 「有難う。じゃあ、また月曜にな」  秋ちゃんは別に持っていた紙袋を俺へと手渡し、最後に宏哉の頭――と、ついでのように俺の頭まで撫でて、静かに部屋を出て行った。
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