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「暗いけど……出れそうか?」
聞けば、携帯のライトを懐中電灯代わりにすれば大丈夫そう、と返る。
「じゃ、待ってるから」
そこで、一瞬美咲のことを切り出そうか迷ったけれど、どうせ来れば分かることだ。
なるべくこの現実から目を背けたくて、俺はあえてその言葉を飲み込んだ。
と――。
程なくして大荷物を抱えた直人がアパートの入口に現れる。
沢山の荷物に見え隠れするように、直人の傍で何か小さな陰が動いているように見えるのは、気のせいだろうか?
暗がりの中、イマイチよく見えなくて定かではなかったそれが、近付いてくるに連れてハッキリとした輪郭を伴ってくる。
(子供……?)
一瞬、頭の中に浮かんだ思考を「ありえねぇだろ」と打ち消してから、後部シートの美咲のことを思い出し、背中に嫌な汗が滲む。
「……久しぶり」
直人がそう言って恐る恐る助手席のドアを開けたのと、
「きゃー、いい男!」
後部座席の美咲が黄色い声を上げたのとがほぼ同時だった。
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