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「代わろうか」
寝てしまった宏哉を抱いて、エレベーターに乗り込むと、ちょうどそのドアが閉まったところで、逸樹さんが短く訊いて来る。
「や、平気。……それより、荷物アリガトな。えっと…」
「美咲です。川崎美咲。この可愛くない男の……一応親戚?」
俺の荷物は逸樹さんが持ってくれていて、宏哉の荷物は傍らの少女――美咲ちゃんて言うらしい――が、持ってくれていた。
美咲ちゃんは、逸樹さんを目線で示しながらさらりと答える。
と、今度は逸樹さんが深い溜息を吐いた。
逸樹さんに向けた視線は一瞬で、後は美咲ちゃんに重きを置いてしまった所為だろうか。無言で責めるようなタイミングのそれに、
「あ、逸樹さんもホント有難う。マジ助かったよ」
「ついでかよ」
慌ててフォローのつもりで声をかけるが、返されたのは拗ねたような怒ったような、そんな一言だけだった。
(まだ怒ってんのか……)
さっきは普通に戻ってると感じたのに。
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