6...大人と言う名の【Side:三木直人】

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「宏哉って呼んでもいいですか?」 「ああ、いいよ。…ほら、宏哉。お姉ちゃんは美咲ちゃんって言うんだって」  ソファに座っていた俺の横で、相変わらず宏哉は居場所が見つけられないみたいに俺にしがみ付いたままだった。が、その空気を察したのか、美咲ちゃんが控えめに声をかけてくる。  聞けばまだ九歳だと言うのに妙にしっかりした印象を与える彼女は、なるほど確かに時々逸樹さんに似た言動を見せてくれる。  だって、少なくとも俺の周りにいた人たちは、こんな時はまず「宏哉君」か「ヒロくん」だった。それがいきなり呼び捨て希望なんだから、なんて言うか…ああ、やっぱり逸樹さんの身内なんだなと実感せずにはいられない。  もちろんそれが悪いって意味じゃない。ただ、純粋に「面白いなァ」と思っただけ。 「よろしくね、宏哉」  宏哉の隣に、ちょこんと腰を下ろした美咲ちゃんは、幼いのにちゃんと距離を量るように、ただそれだけ言って笑って見せた。  すると宏哉の方も警戒心を少し解いたのか、おずおずと俺から身を離し、美咲ちゃんの顔を見遣って、 「美咲ちゃん」  と、やはり確認するように名を呼んだ。
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