6...大人と言う名の【Side:三木直人】

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「あ、そうだ。逸樹さん、アパートのことだけど……多分明日の昼までには電気復旧するって」  予想に反して、寝室の電気は消えたままだった。  ともあれ、布団を用意すると言ったくらいだ。それならクローゼットか何かで作業しているのだろうと視線を巡らせるも、 「――…っわ、…な…っ……」  彼がいたのは、俺が一歩踏み入ったばかりの部屋の入口のすぐ横で。  俺は引き込まれるように唐突に腕を引っ張られ、思わず上げかけた声を慌てて押さえた。  自分で自分の口を塞ぎ、間近となった彼の顔を何のつもりだと言わんばかりに見上げると、 「……もう限界」  彼はどこか切羽詰ったような声で、ぽつりとそれだけ口にした。 「…な………」  咄嗟のことで抗う暇も無く、気がつけば彼の腕の中だった。  いつも通りと言うのも何だけど、こうなると彼は俺の意向なんて基本お構いなしだ。  しかも最近では俺も、それにいちいち逆らわなくなっていた。  もちろん最初は全力で抗っていたりもしたけれど、結局、それも殆ど敵った試しがなかったので、いつの間にか諦観することで折り合いをつけるようになっていたのだ。  まぁ……それが苦痛ばかりだと言うわけでもなかったし。 (いや、でもさすがに今は……っ)  じゃあとっとと済ませてね。  なんてわけには行かない。 「ちょ…逸、樹さんっ……マジ、冗談は……」 「これが冗談だと思うのか……?」 (いや、思いません)  ――じゃ、なくて!  だからマジで冗談じゃないんだよ! (こんなとこ、美咲ちゃんや宏哉にもし見られでもしたら……っ)   そんな俺の苦悩を余所に、彼は開け放ったままのドアの横で、さも当然のように唇を重ねようとする。  俺は寸前でそれをかわすと、隙を突いてするりと彼の腕の中から抜け出した。 「ちょっとくらい待てねーのか、このバカ!」  そして思い切って電気を点けた。  もちろん、当初の予定通り、子供たちの寝床を用意するために。  ついでに、それで彼の頭が少しでも冷えてくれればいいと思った。
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