7...疎外感【Side:山端逸樹】

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 しかし、家主の俺に何の断りもなくこんな風にみんなを仕切っている美咲――実際は美咲が仕切ったんじゃない可能性もあるが――に腹立たしさを覚えた俺は、彼女を見下ろす視線に自然鋭さがこもる。  そんな感じでリビングの入口に突っ立ったまま、皆を見下ろす格好で呼びかけた俺に、 「……何?」  さも怪訝そうな顔をして直人が問いかけてきた。  傍らで眠る子供たちを気遣うような小声にも神経を逆撫でされてしまい、 (俺にもそのぐらい気を遣えよな)  声には出さずそう毒づいてから、 「……風呂は?」  なるべくそんな不機嫌さを表に出さないよう気をつけながら問いかける。  実際、頭の中に浮かんだ「お前、まさかそこで寝るわけじゃないよな?」という言葉を素直に発することが出来なかった俺は、そのことでますますストレスを感じていた。 「夕方に入ったから」  だからあえて入る必要はないんだ、と俺を見上げて薄く笑った直人の表情に、俺は堪えがきかなくなる。 「……直人っ」  子供たちを起こさないよう直人の傍らに歩み寄ると、彼の横へ片膝を付き、そのまま覆いかぶさるように唇を重ねようと試みて――。 「馬鹿っ!」  直人に思いっきり顔面を手で被うようにして押し戻されてしまう。  その抵抗が余りにストレートで、俺は何だか全てがどうでもよくなった。 「お前、今日はそこで寝るんだな?」  それでも一応、最後の望みを託して問いかけた俺に 「……ったり前だろっ!」  真っ赤な顔をした直人が、そう言って背中を向ける。  そんな直人の背中をしばし見詰めてから、俺は無言のまま寝室へ入り、その扉を閉ざした――。
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