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「……夜はもう涼しいな」
寧ろちょっと寒いくらいか。
俺は徐に起き上がると、宏哉と美咲ちゃんが熟睡しているのを確認してから、静かにリビングの窓を開けた。
そして自分の部屋とは違い十分な広さを持つバルコニーに降り立つと、月明かりが眩しくないよう元通りに遮光カーテンを引いて、音を立てないよう注意しながら後ろ手に窓を閉める。
ほっとひとつ息を吐き、ゆっくり踏み出すと前方の手摺に指先を添えた。
「冷て……」
思わず漏らした呟きに、咄嗟背後を振り返るが、ガラス戸はしっかり閉ざされているし、その向こうのカーテンが揺れることもない。
改めて戻した視線で眼前に広がる夜景を眺め、そして、
(…何をそんなに焦ってんだよ)
俺は深い溜息を吐いた。
「あ。そういえば……」
と、不意にあることを思い出して俺は視線を巡らせる。
彼の寝室の入り口はリビングに面していて、位置的にはバルコニーを共有できる並びになっていたはずだ。
外から回ったことは一度も無い――というか、バルコニーに出たこと自体ほとんど無かったんだから、当然と言えば当然だ――けど、彼の寝室にも同じ方向に窓はある。
目にする時はいつもカーテンが閉められていて、実際どうなっているのかなんて知らなかったけど…。
俺は誘われるように、彼の寝室の方へと歩いて行った。
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