9...崖っぷち【Side:山端逸樹】

1/4
前へ
/354ページ
次へ

 9...崖っぷち【Side:山端逸樹】

 直人にきっぱりと拒絶されたのがショックで、大人しく寝室に引っ込んで見たものの、そんな状態で眠れるはずもなく――。  気が付けばベッドに寝転んで、何度も寝返りを打っていた。当然、頭の中は悶々とする一方だ。  アパートまで迎えに行った時だってそうだ。  直人のやつ、結局俺の言うことを聞かずにさっさと後部シートに収まっちまったし。  安全面や道交法を思えば彼が正しいのは分かっている。  でも――。 (なんで美咲の横なんだよっ!)  ほんの少しでも近くにいたいと思うのは、俺だけの感情なのか?  散々お預けを食らった挙句、触れたいと素直に心情を吐露してみても拒絶とか。 (少しぐらい応えてくれたっていいだろーが)  それが、俺の率直な思い。  いくらガキどもがいたからって……そこまで気を遣う必要はねぇだろう!  直人は、よくことある毎に「時と場合を考えろ」とか言う。しかし、それは自分にゆとりがあってこそ出来る芸当だ。  ギリギリのところで踏みとどまっている以上、そんなことを考えている余裕なんてないはずだ、というのが俺の持論で――。  裏を返せば俺が彼を想うほど、直人は気持ちの上で切羽詰まっちゃいないということだろうか?  眠れないのに任せて色々考えていたらそんなことにまで思考が行ってしまい、ますます目が冴えてしまう。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1829人が本棚に入れています
本棚に追加