9...崖っぷち【Side:山端逸樹】

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 寝そべっていても一向に降りてこない眠気に、俺は苛立ちを覚えて起き上がると、ベッドサイドに腰掛けてリビングとの境目の扉をジッと睨んだ。  電気をつけていないので薄らぼんやりとしか部屋の様子が分からない。だが、それでも今日は満月に近いらしくカーテン越しの月明かりが部屋の奥まで伸びていて、目が慣れてくるとそれなりに明るかった。  窓は開けていたけれど、殆ど風はない。だからといって寝苦しいというほど暑いわけでもなくて――。 (このぐらいの温度なら……)  いつもはリビングに寝かせている愛鳥スパロウだが、美咲がやって来てすぐに電気を煌々と付けやがったので、避難させる意味で一旦はここへ移動させていた。  だが、今日の俺はそんなスパロウさえ疎ましく感じてしまう精神状態だったから。結局少し考えて、ウォークインクローゼットの中へ連れて行ったが、あそこには窓がないので余り暑いようなら可哀想だ――。 (でも…ま、まず問題はねぇだろう)  一応、クローゼットから玄関のほうへ抜ける側の戸は開け放ってあるし。  要するに、今、この部屋には俺一人だけということだ。  ふとそう考えてから、 (……じゃあ、ここなら直人も誰にも気ぃ遣う必要はないはずだよな)  そう思い至った俺は、物音を立てないよう細心の注意を払いながらリビングとの仕切り戸を引いた。  幸い、さっき見たとき直人はこの部屋に一番近い側に寝そべっていたからガキどもに気付かれずに攫ってくることも難しくないだろう。  しかし――。
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