10...求めるのは【Side:三木直人】*

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「逃げないって解ってても……そんな言葉だけじゃ、足りねーんだよ。俺は」  宥めるように言い聞かせても、彼は一瞬苦いように顔を歪めただけで、結局首を横に振った。そしてゆっくり腰を引く。収め切ったままじっとしていたからか、先刻よりは痛みがマシになっていた。 「…んっ……ふ、ぁ…っ」  内壁を引き摺るようにして、ぎりぎりまで抜かれた彼の屹立が、再び奥へと押し戻される。奥歯を噛み締め、努めて声を抑えようとしながらも、次第に霞む理性は止められない。  片足で立っただけの不安定な姿勢も相俟って、俺はいつのまにか彼の首に自ら両腕を回してしがみついていた。まるで力いっぱい求めて抱き締めている風に。もっと近くに来てほしいと願って止まないみたいに。 「直、人っ……」  何かを堪えるみたいな、声にならない声で名を呼ばれる。  涙に滲む視界が、がくがくと上下にぶれる。ゆっくりだった律動が、急くように加速していく。揺さぶられていた身体が、跳ねるように強く突き上げられた。  ――ああ、だめだ。こんなのもうどうにもできない。 「や、ぁあ…っ、んっ、…――っ!」  やがて逸樹さんが達すると同時に俺も射精する。その瞬間、俺は珍しく自分からキスをしていた。  だってこれ以上声を上げるわけにはいかなくて。でもそのまま我慢するのも難しそうだったから。  ……まぁ、たったそれだけのキスにしては、ちょっと濃厚過ぎたような気がしないでもないけど――。 「……って、え。いや、…今度こそ冗談だろ……?」 「直人が煽るから悪いんだろ。こんな程度で終われるか」  だからって、この期に及んで彼の寝室に引き摺りこまれるなんて、本気で夢にも思ってなかったんだけど!
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