11...埋まらない心【Side:山端逸樹】

2/3

1825人が本棚に入れています
本棚に追加
/354ページ
 直人の中に何度吐き出したか分からない欲望の残滓は、直人自身のものと相まって彼の身体のあちこちを汚していた。  彼を起こさないよう、脱衣所でタオルを濡らしてくると、そんな直人の身体をぬぐってやる。  そうしながら、そこここに付いた鬱血の痕を見て、思わず溜め息が漏れる。 (こんなに酷くするつもりはなかった――)  俺が身体のあちこちを拭っても起きる気配を見せない、ぐったりとした直人の寝顔を見つめながら、申し訳ないような気持ちが込み上げてくる。  でも。 (お前が悪いんだぞ)  ずっと俺を放置しておいたから――。 「お前、俺とガキどもとどっちが大事なんだよ……?」  直人が眠っているのを良いことに、そんな女々しい愚痴を口の端に乗せてみる。  直人をこの腕に抱きながら、俺のことしか考えられないようにしてやろう、と何度も思った。そして、そうなるように努力したことが、彼を執拗なまでに責める結果になってしまったのだ。  けれど、実際直人には最後の最後まで声を漏らさないようにしなければ、という羞恥心は残っていたから。  ある意味、俺の願いは叶わなかった、と言える――。  それ以上彼を見詰めていたら、「宏哉たちに決まってんだろ」という声が聞こえてきそうで……俺は慌てて直人に背を向けて寝そべった。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1825人が本棚に入れています
本棚に追加