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「……何やってんだよ」
見ればそこには、部屋の前に置かれたダンボールに躓き、更に忌々しげにそれを蹴り付ける逸樹さんの姿があった。
思わず込み上げたおかしさに肩を震わせると、彼はずかずかと此方に歩いてきて、
「キスさせろ」
何の脈絡もなく唐突に言い放つ。
俺は一瞬返す言葉もなく唖然としたが、それにもまた遅れて笑いが込み上げてきた。
「いいよ」
そして案外あっさりと。俺は小さく笑って頷いた。
すると今度は、言い出した側であるはずの逸樹さんが一瞬驚いた風な表情になり――。
俺はその隙を逃さず、自分から不意打ちのようなキスをした。
もちろん昨夜のような濃厚なキスじゃなく、言うなればおはようの挨拶とでも言うような簡単なキスだけど。
ややして唇を離し、身長差に僅かに背伸びしていた姿勢を戻し。そうして、改めて彼の双眸を真っ直ぐに見遣る。
「逸樹さんは、もうちょっと――」
頭上に広がる空は雲ひとつ無い快晴で。風もこの上なく心地良い。
その所為か気分は妙に穏やかで、珍しくいつもより素直な言葉を伝えられそうな気がした。
だけど。
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