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「おはようございます、直人お兄さん!」
突然、再びカラカラと窓が開く音――しかも今度は勢い良く――がして、更にはその音が止まないうちに少女特有の高い声が周囲に響く。
その余りに思いがけない事態に、俺も逸樹さんも一瞬時間が止まったようになり、
「…お、おはよう美咲ちゃん」
それでもどうにか俺の方は、努めて笑顔を浮かべて見せた。
対して逸樹さんは、やがて美咲ちゃんが傍まで歩いて来てもそちらを見ることすらせずに、黙ってただ静かに目を伏せていた。
(やばい……)
殆ど本能で悟る。いくらなんでも静か過ぎる。これはもう、怒りの臨界点がすぐそこだと言うに違いない。
「み、美咲ちゃん、朝ごはんの用意するから手伝ってくれる?」
「もちろん、直人お兄さんのお手伝いなら喜んでするわ!」
「じゃあ、ほら。早速取り掛かろう」
俺はとにかくその場から避難するのが先だと思い、美咲ちゃんの肩を押して部屋の中へと促した。
背後に残した彼の心中は察するに余りあるくらいだったけど、流石に美咲ちゃんの前ではどうしようもない。
だから、せめて心の中だけで。
(もうちょっと自信持てよ、ちゃんと好きなんだから)
振り返ることも無くそう告げて。俺は先にバルコニーを後にした。
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