一線の越え方

13...気になる言葉【Side:山端逸樹】

　さっき、直人は何を言いかけたんだろう？
（俺はもうちょっと……どうすりゃいーんだよ……？）
　最後まで直人に言葉を紡がせず、邪魔をしやがった美咲に殺意すら芽生えた――。
　直人がその気配を察して彼女を連れ去らなかったら、朝から大喧嘩になっていただろう。
　っていうか……もしかしたらバルコニーから投げ捨ててたかも？
　さすがにそこまでやりゃーしないとは思うが、絶対やらない、とも言い切れない自分が恐ろしい。
（そんなことしたら素直に殺されるな）
　そこでふと、先ほど蹴つまずいたダンボールへ視線を転じる。
　使わないのに――邪魔なのに――これをいつまでも捨てられずにいるのは何故だろう？
　端的に言えば怖いから、だ。
　それは素直が怒ることに対して、ではない。
　素直に嫌われるかもしれない、と思うことが、だ。
（……いつもこんなだな）
　とにかく自分が嫌われたくない相手の気持ちに対して、俺は妙に臆病なところがある。