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もう何年も前に、素直から少々のことじゃ、嫌ったりはしねぇよ的なニュアンスの言葉を言われたことがある。けれどそう言われてさえこの調子だ。
基本的に自分のテリトリーに他者が介入することを嫌う俺だが、それでも幾人かはそこへ踏み込むことを許せる人間がいる。
そういう人間が相手だと、途端いつものように俺は俺、他人は他人、と思えなくなるのだ。
愛情表現が苦手で、愛されることにも不慣れなまま成長してきた結果が今の俺なんだろう。
直人は俺に何を求めているんだ?
そこでまた、思考がさっき中断された彼の言葉に戻る。
(クソッ。言ってくれなきゃ分からねぇだろ!)
一人バルコニーに残って、しばらく考えてみたけれど、答えは出そうになかった。
やっぱり本人に言ってもらうしかなさそうだ。
そう判断した俺は、直人を追ってキッチンへ向かった。
出たときとは違い、リビング側の窓を抜けて室内に足を踏み入れると、宏哉少年はまだ夢の中だった。あどけない寝顔を見下ろして、
(やっぱコイツんが可愛いよな)
美咲なんかより何倍も!
頭の中でそう付け加えると、まるでそれに反論するかのように前方から甲高い少女特有の笑い声が響いてきた。
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