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俺の家はリビングダイニングの造りになっていて、キッチンとここはカウンターで対面になる形だ。
だからリビングに入ればそのまま真っ直ぐキッチンを臨むことが出来る。
どうやら直人と談笑しながら楽しくやっている風な美咲の様子に、俺はますます機嫌が悪くなった。
「直人」
不機嫌さを隠さず彼の名を呼ぶと
「逸樹は邪魔だから宏哉とリビングにいて!」
あっかんべ~をしながら美咲がそう言った。
「邪魔なのはお前だ」
思わず声に怒気がこもる。
「あ、ちょっと二人とも――!」
直人が、そんな俺たちを宥めようとオロオロしている姿が目に付いたが、それすら腹立たしく思えてしまった。
「来い!」
大股でキッチンへ足を踏み入れると、美咲を押し退けるようにして直人の手を取る。
「え、あ、ちょっ、逸樹さん! 待っ……!」
そんな俺の態度にうろたえるように直人が声をかけてきたが、お構いになしに歩き出す。
美咲の横をすり抜けるとき、チラリと視線を電磁調理器にやったが、幸いスイッチは入っていなかった。
というより、手順自体まだ野菜を洗う段階だったらしく、包丁などの刃物も出ていなかった。
(火傷される心配も、刃物で怪我される心配もねぇな)
いくら憎たらしくても美咲は大事な預かりものだ。傷つける訳には行かない。
ある意味仕事をしているときの現場監督のような気分で状況を把握すると、少々ならここを離れても問題ねぇな、と判断を下した。
背後から美咲と直人の声が聞こえていたが、俺は完全無視を貫き、そうして有無を言わさず直人を寝室へ連れ込んで――。
もちろん、すぐにロックもかけた。
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