1825人が本棚に入れています
本棚に追加
/354ページ
「……苛々するなよ。そんな顔されたら、俺、自分がどうしたらいいのか解らなくなる」
射るように真っ直ぐな眼差しに堪えられず、俺は僅かに顔を背ける。
「逸樹さんは、解ってないんだよ」
「何が」
「俺がどれだけ覚悟を決めて、ここにいるか」
呟くように言うと、逸樹さんは小さく眉を潜めた。
「後悔……してるのか?」
「してねぇよ」
即答すると、ますます真意が読めないとばかりに逸樹さんの顔が曇った。俺はひとつ吐息して、
「だからさ。そうさせない為にも、逸樹さんはもうちょっと……」
改めて、先刻バルコニーで言い損ねた言葉を告げようと口を開く。
――が、結局また同じところで言うのを止めた。
「……もうちょっと、なんだよ」
するとその先を急かすように逸樹さんが口を挟む。その表情は、さっきまでに比べるといくらか落ち着いているように見えた。
まぁ、別の意味で焦っている風ではあったけど。
俺はそんな彼の肩にぽんと手を置いて、
「大体、子供たち(あいつら)とアンタを比べること自体間違ってるだろ」
思い出したように苦笑混じりにそう返す。
最初のコメントを投稿しよう!