13日の金曜日-2019-【Side:山端逸樹】

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「え? もう飲んだの?」  冬の寒い時期によくそんながぶ飲みできるね、とやや呆れ顔の直人を尻目に、「エアコン、ガンガンにきかせてんだから普通に飲めるだろ」と答える。  っていうか実際、俺が飲んでも仕方ねぇんだって。 「けど直人、お前だって冬だからって熱燗(あつかん)つけるようなタイプじゃねぇだろーが」  分かっていて不機嫌そうにそう言うと、「まぁね」と軽く微笑まれた。  くそっ。笑顔、可愛すぎんだろっ。  ほろ酔いにしてから……とか段々どうでも良くなってきて、取ってきたばかりの冷えた缶を手にしたままテーブルに手をついて直人の方へ身を乗り出したら、寸でのところでガードされてしまう。 (くそっ。キスのお預けって……一体何の焦らしプレイだよ!) 「話、まだ終わってない」  どうやら直人は13日の何とやらの話をまだ続けたいらしい。 (俺は今すぐにでもお前を押し倒したいんだよ。あまり長く待ては出来ねーぞ?)  思いながら座ると、俺は半ば自棄(やけ)になってビールを煽る。 「大学でさ、あんまりにも流行ってるから動画配信サイトでレンタルしてみたんだけど」  言いながらスマホの画面を俺の方へ向ける直人に、なんの気無しに表示されたサムネイル画像を見た俺は、何だこの白い穴だらけの仮面ヤローは……と思う。 「ジェイソンって言うんだって」  俺がわずかに目を(すが)めたのに目ざとく気付いたらしい直人が、すかさず解説を入れてくる。 「動画のレンタルってさ、一度再生ボタン押しちゃうとそこから48時間以内に観ないといけないみたいで」  そのリミットが数時間後に迫っているのだと、困ったように鼻をかく直人に、マジか、と思う。 「逸樹さん、まだスマホにしてないじゃん? テレビも古いままだし」  だからこれも持ってきた、と“目一杯首を伸ばしたカタツムリのような黒いもの”をテーブルの上に置くと、直人が俺の目をじっと見つめてくる。
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