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「っも……やだ、ぃっ、んぅ……っ」
視界の端に、床に置かれた缶が映る。空いたその手が、俺の頬に触れる。顔を背けようにも、そのまま抑え込むように固定されて、すぐさま唇を重ねられた。
冷たい琥珀色の液体が、否応なしに口の中へと流し込まれる。
飲みたくないと舌で遮ろうにも、不意打ちのように接合部を突かれるだけで、勝手に喉が開いてしまう。
「……っ! っは、ぁ……っ……」
唇が離れると、急くように息を吸い込んだ。込み上げた咳を重ねれば、溜まっていた涙がぽろぽろと伝い落ちる。
それがまた悔しくて、俺は奥歯を噛みしめる。噛み締めた――つもりだった。
(あ、れ……?)
気がつくと、思いの外力が入らなくなっていた。全身をふわふわとした浮遊感が包み込んでいて、そのつもりもなく唇が戦慄いてしまう。
「……まぁ、こんなもんか」
そんな中、ふと耳に届いた呟きに、俺はゆっくり視線を上げる。
茫洋とした心地のまま逸樹さんを見上げると、ようやくどこか満足したように笑う姿が目に入った。
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