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「逸樹さん……何の願い事、したの?」
いつもならあんまりこういうことを詮索してきそうにない直人が、トロンとどこか据わった目をして問いかけてくる。
「あ? 別に大したことじゃねぇよ」
言って、くしゃりと直人の頭を撫でてから「そっちが先に教えてくれるんなら教えてやってもいいぜ?」と意地悪く微笑んだ。
直人は少し考えてから「俺のも大したことじゃない」って言って。
でも言った後、どこか決まり悪そうに目を逸らしたのが気になった俺は「言えよ?」とベンチに腰掛けた直人を引き上げるように立たせる。
向かい合わせになって、額を突き合わせんばかりに顔を覗き込めば、「去年は……あんま会えなかったから……今年はもう少し会えますようにって」と尻すぼまりな声を出す。
「……ふーん。――誰と?」
そんなの分かっていて意地悪く問えば、息をつめたように直人が俺を睨んだ。
「アンタ……しかいねぇだろ……っ」
呼気に酒の香りがほんのり混ざっていて、いつもより少し頬や耳朶に赤みがさしてる。
そのうえ瞳がちょっぴり潤んでめちゃくちゃ艶っぽいくせに、口調だけはどこか拗ねたようにいつも通りの強気というギャップ。
寒さのためか、鼻の頭がほんのちょっぴり赤くなっていて。
そんな些細なことですら愛しいと思えてしまうのは、相手が直人だからだろう。
こんな直人を見るのは恋人である俺だけの特権だと思いたい。
「奇遇だな、直人。その願い、叶えてやれそうだぞ?」
ククッと笑って直人の額にコツン、と自分の額を突き合わせると、俺は直人の耳元でささやいた。
「俺もさっきさ、ここの神様に〝直人ん家の近くにいい物件が見つかりますように〟って願掛けしといたからな」
その言葉に直人が「……えっ?」と瞳を見開いて俺を見つめるのを見届けて、「バカかよ!」と怒られる前に唇を塞いで黙らせた。
バカでも何でも、俺は「それ」、年内に実行に移す気でいるから。
お前の願い事もそん時、一緒に叶うぜ?
な? 悪くないだろ?
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