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「分かった。此度も頼むぞ・・・そして、あの・・・不埒な奴らに思い知らせてやるのだ・・・。」
辺境伯は自分自身に言い聞かせるように強く言った。
「はい。」
僕は、辺境伯に頷くと・・・心配そうに僕を見る君の頭を軽く撫ぜると、『トマトのあしらわれた杖』を握り・・・馬に跨った・・・。
辺境伯が揮下の部隊に大声で命令を下すのを聞きながら、僕は馬をゆっくりと馬を進めると杖を両手で握りながら呪文を唱える・・・。
「死と闇の女神『ノ・ア・ラーキ』よ、我に応えよ・・・我、鮮血と苦痛の叫び・・・を捧げん。出でよ、女神『ノ・ア・ラーキ』の忠実なる僕にして闇の世界を束ねる、死の翼『アスカ』よ。」
僕が呪文を唱え終わった瞬間・・・杖が光り・・・僕の頭上に三つ首の巨大な鳥・・・腐りかけた身体から腑汁をボタボタと溢しながら・・・『アスカ』は現れた・・・。
たちまち周りは腐臭に覆われ・・・息をするのも憚られた・・・。
僕は1ブランシュ(約1,000m)先の敵陣に向かって馬を走らせた。
敵陣からの防ぎ矢が濃密になった頃・・・距離200トロン(約200m)で、僕は杖を高々と上げ・・・『アスカ』に命じた。
「行け!死の翼よ・・・全てを喰らい尽くし・・・あの世へ連れて行け!」
腐臭が一瞬・・・更に密度を増した・・・。
『アスカ』は僕の言葉に、この世のものとは思えない・・・何度も聞いている僕でさえ身震いするあの・・・恐ろしい雄叫びを上げ・・・敵陣の上を矢の様に通過して黒雲の中に消えた・・・。
『アスカ』が通った後には累々とした・・・屍と・・・蠢くモノと化した敵の兵士の姿だけがあった・・・。
僕の左右を蛮声と共に見方の兵士達の足音が・・・通り過ぎていった・・・。
太鼓の音に併せてバイヨネットを銃の先端につけた歩兵の縦隊が・・・。
雨の為、敵からの応射はなく・・・そして『アスカ』が屍で敷いた道を兵士達はただ、ひたすらに進んでいった・・・。
僕は、目の前で繰り広げられる戦闘と言うより一方的な殺戮劇を・・・馬上でいつもの様に、淡々と見つめていた。
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