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ガチャ・・・
キィ・・・パタン・・・
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
四脚の椅子が並ぶテーブル席が2つと、カウンター席が4つの小さなバーの扉が開き、閉まる。
音楽のかかって居ないジュークボックスの脇を、背中に大きく薄い黒・・・否、濃い灰色で狼のシルエットが描かれた漆黒のコートを羽織った男が通り過ぎ、カウンターにへと向かった。
コートの下はまるでスパイを連想させるような、暗闇での彼の存在を周囲から隠すかのような服装。
しかし、それを打ち消すかのように赤く、彼の髪は彼の存在を主張させていた。
隠れたいのか目立ちたいのかよく分からない風貌のその男はカウンターチェアに腰掛けると、ポケットから煙草を取り出し咥える。
カウンターの向こう側でグラスを磨いていたマスターはチラリと男に目を向けた。
そうして、まるで手品のように何も持っていなかった筈の右手からジッポを出して見せ、火を男の傍にへと持っていき逆の手で灰皿を彼の目の前に置く。
このマスターもまた変わった趣向の持ち主で、バーテンっぽい服に赤いバンダナを左腕に巻き、バイクに乗るときに使いそうなゴーグルを頭につけて大きめのヘッドフォンを首から下げていた。
そして、まるで鴉のような綺麗な漆黒の髪。その左前髪の一部に対照的な赤いメッシュが入っていた。
客商売である筈のバーテンダーとしてその恰好はどうなんだろうとは思うが、まぁ此処は彼の店なのでこの際スルーすことにしよう。
赤髪の男が店内に視線を走らせるが、客は彼の他には誰もいない。
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