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呆気に取られる私を置いて、先にスタスタと歩き出した美鈴の背中をボーッと眺めていると、それに気がついた美鈴が回れ右して戻ってくる。
「愛!せっかくチャンスあげてるんだから無駄にしないでよね。早く行け!」
両手で私の顔を挟んだ美鈴は、グイっと私の顔を窓の方へ向けた。
窓の外には食堂前の自販機が並んでいる。
「あ………」
次の瞬間、私の体は自然と走りだしていた。
だって、そこには自動販売機に小銭を入れる仁ちゃんの姿があったから。
「先戻ってるよぉ」
背中で美鈴の声がしたけど、振り返ってる余裕は無かった。
全速力で廊下をかける。
どうか間に合ってと思う気持ちばかり先にたって、足が早く動いてくれないのがもどかしい。
階段をかけ降りるとき、足がもつれて転びそうになる。
お願い。もう少し早く走って。
食堂へ抜けるドアを出るとき、ちょうど取り出し口に手を入れる仁ちゃんの姿が目に入った。
『待って仁ちゃん』と叫びたいのをグッと我慢する。
だって、ここは学校。
こういうとき、私たちの関係は秘密なんだと実感する。
これが、普通の同級生同士のカップルなら迷わず叫べるのに……
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