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「何で………」
そんな私の存在を知ってか知らずか、宮沢先生は仁ちゃんの腕に自分の手を絡めたかと思うと、その艶やかな顔を仁ちゃんの耳元まで寄せた。
腕に絡ませた手とは反対の手を仁ちゃんの肩に乗せる。
それは、どうみても同僚の域を越えている空気を放つ。
なんだろう………この気持ち。
ここまで走ってきて、あと少しのところで………
こんな光景が見たかったわけじゃない。
視線を逸らすことも忘れてその場に立ちすくむ私
お願い仁ちゃん、その手を振り払って。という私の願い虚しく、宮沢先生の顔は仁ちゃんの耳元から離れていく。
そして微笑み合う二人
どうして仁ちゃんがそんな顔をするの?
ピリッとした痛みを感じて手のひらを見ると、気がつかない間にグッと握りしめていたようで、爪が食い込んでいた。
「もう………嫌だ」
その場に崩れ落ちそうになるのを、グッと拳を握りしめた痛みで誤魔化す。
そんな私を知らない仁ちゃんは、宮沢先生と共にこちらへ歩いてくる。
とっさに柱の影に隠れた私の目の前を仁ちゃんと宮沢先生が通り過ぎる。
過ぎ去るほんの一瞬、宮沢先生と目があった。
戸惑う私に、宮沢先生は人差し指を口にあて、微笑みながら去っていった。
黙ってろって合図。
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