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宮沢先生は気付いてたんだ。
私がここで見ているのを。
そして、わざと見せつけるように仁ちゃんに近づいたんだ
立ち去る寸前の宮沢先生の余裕な顔が目に焼き付いて離れない。
『仁ちゃんの彼女は私です』って言ってやりたい。
だけど言えない。
そんなもどかしさに加えて、宮沢先生の美しい容姿と溢れだす艶やかさは、女の私が見てもドキッとするくらいで、女としての敗北感が、私の自信をみるみる萎ませる。
誰が見たって仁ちゃんの隣が似合うのは……宮沢先生の方だ。
あぁ、あと5才……ううん。せめて私が高校生じゃなかったら良かったのに。
そしたら、宮沢先生に負けないように努力する事だってできるのに。
姿を隠したまま一歩も動く事ができないでいる私の手に、不意に温かさが包みこんだ。
「あーあ。こんなになるまで握りしめちゃって。食い込んでキズになるぞ」
「亮太……」
ふと見上げると、困ったような顔をしている亮太がいる。
握りしめていた私の手を、指1本1本を剥がすように広げている。
亮太に言われて自分の手のひらを見ると、そこには紫色に変色した爪の形がクッキリと残っている。
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